投球障害肩
投球障害肩 と云われる疾患は、
筋、腱に由来する疾患(腱板炎、上腕二頭筋長頭腱炎、腱板断裂)、関節内障害による疾患(関節唇損傷(SLAP)・断裂、遊離体など)、滑液包・関節包に由来する疾患(肩峰下滑液包炎、滑膜炎など)、Bennett病変、不安定症などがあげられますが、多くは慢性的な運動機能不全が繰り返す事で、器質的病変が出現したものであって、疾患があれば、必ずしも異常である、治らないというわけではありません。
野球や、ハンドボール、バレー、水泳などは非常に上肢を酷使します。特に野球や、バレーは肩を痛める方が多いです。なぜ障害がでるのでしょうか。
図に示していますが、肩だけ動かしても力強いボールを投げたり、強いスパイクをうつことはできません。下半身が安定し、腰が回旋して、背骨(胸椎)が伸び(伸展)、肩甲骨がしっかり動くことで、肩関節はしなやかに動き、肘が伸び、指に力が伝わり、力強いボールを投げられるのです。運動連鎖がスムースにいくことにより、肩関節に負担がかからないパフォーマンスが可能となります。しかし、運動を続けることで、人は筋肉が硬くなり、動きも悪くなります。図のように下半身や体幹に機能不全がおきることで、肩や肘に負担がかかります。その負担が積み重なりますと関節唇損傷(SLAP損傷)や腱板関節面不全断裂を引き起こします。(図に示しています)。
しかし、関節内の構造物が破綻してしまえば、運動ができないかというとそうではありません。スポーツ選手は幼い頃から、肩を使ってスポーツをしています。関節内の構造物は破綻していても投げている方は沢山おられます。スポーツ肩(投球障害肩)になった選手は運動連鎖の破綻による肩への負担が積み重なって症状として表れるのです。したがって治療は運動連鎖がうまくいくことが必要です。つまり、積極的な運動療法が絶対的に必要なのです。
しかし画一的なリハビリでは、うまくいきません。投球の動作において、肩に負担のかからない運動ができるように、意識づける、解釈を体感で得ることが大事なのです。私は以下のことをとくに念頭において、治療をうけるように選手に伝えています。
① 骨頭前方すべりの修正:可動域訓練にて外旋および水平外転に注意
② 可動域:投球に安定した「しなり」を可能とする安定した外旋の獲得
③ 筋機能:全可動域を制御された運動が可能となること、腱板(ローテーター・カフ)のバランス向上、投球中の応力に負けない筋力・筋持久力の獲得
④ 前方剪断力の少ない安定した動的アライメント:安定化訓練、適切なフォームの獲得内容が複雑なので順に説明します。
①可動域訓練は、肩関節のみならず、肩甲骨、かつ胸椎の可動域も広げなければ、肩関節に負担がかかります。水平外転とは、上腕骨がlate coking相で、背中のほうに伸ばしすぎるとイメージすると分かりやすいと思います。水平外転が過度になると、関節唇にストレスがかかり、障害がおこりやすくなります。
②しなりを獲得するのは、運動連鎖がスムースにいくうえで重要な事ととられています。「しならない肩」では球速やスピン量が落ちてパフォーマンスが悪化すると考えています。
③関節可動域に制限がおこると、制限のない肢位では過剰な動きがでてしまいます。結果的に、肩は不安定性がおこります。元々肩は前方のほうに移動しやすい構造をしています。肩、上腕骨頭を適切な位置にとどめるには、腱板前方部の肩甲下筋と他の筋群(棘上筋、棘下筋、小円筋)との筋バランスを整える必要があります。。しかしむやみにチューブトレーニングをするのはバランスを崩すだけです。さじ加減が必要ですし、トレーニングは投球障害肩のインナーマッスルトレーニングの項目を参考にしてください。
④前方剪断力という難しい言葉がでましたが、分かりやすく言いますと肩が前につきださないように気をつけなければなりません。体のどこかの機能障害により、フォームがくずれ、肩に負担がかかります。そういう意味では、フォームの修正を周りが無理にいじるのではなく、肩にはあまり力がかかっていないなあと選手本人が認識するように指導していく、変化させる変化を与えるのが大事だと思っています。
投球障害肩の治療には、運動療法が必要であることをご説明させてもらいました。
運動療法にも、徒手療法、マッサージ、ストレッチ、PNF、ヨガ、ピラティス、ロルフィングなど様々な運動療法があります。どの治療もすばらしい効果を得ることができます。しかし、ほとんどの治療はセラピストによる治療をうける必要があります。セラピストの治療をうけるには、病院などの施設に行く必要があります。
しかし、運動する時間がない、セラピストの治療をうける時間のない方もたくさんいらっしゃると思います。その方のために、少しずつでもいいので続けていける運動療法をしめしました。効果はすぐにはでないですが、ぜひ続けてください。自分の身体を見つめ、動かしていくことで、脳は刺激されます。
注意点:痛みがでる場合には、無理に行わないで下さい。またスライドをみるだけでは分からないことは多いと思いますので、疑問点がありましたら、外来にお越しくださるか、お問い合わせください。
ストレッチ
上肢編と体幹・下肢編に分けました。しなりを獲得する上で重要となります。
筋力トレーニング
インナーマッスルトレーニング、肩甲骨トレーニング、体幹トレーニングに分けました。
肩の病気
様々な肩の病気を解説しています。自分がどの病気に該当するかおおまかな目安にしていただければと思います。