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腱板断裂症性変形性肩関節症


リバース型全人工肩関節置換術
(反転型全人工肩関節置換術)

~肩がどうしてもあがらない方のために~

 
以下の症状がある場合には、病名としては “「腱板断裂症性変形性肩関節症」” の可能性があります。
 

【症状】


1、肩の動きが悪くなっている、ごりごり音がする。
2、肩を動かさなければそれ程痛くないが、動かすと、強く痛む。
3、動きとしては自分の肩の高さよりは腕が挙げられない(強い変形が考えられます)。横に肩が挙がらない。
 
このような症状がある場合、イラストのように肩の骨が変形している可能性があります。下の図は、左が正常、右が変形した肩関節(腱板断裂症性変形性肩関節症)の図になります。
 

正常な肩関節とが変形した肩関節(腱板断裂症性変形性肩関節症)

 
イラストとの違い

正常と腱板断裂症性変形性肩関節症の違いは、イラストには記載されていませんが、上腕骨頭を覆う腱板(インナーマッスルの腱)が大きく断裂をして、骨頭と肩峰が接します。
 

【治療方針】

 

【痛みをとることだけで肩をあまり動かさない方の場合】


関節内に炎症を抑える薬を注射する方法と安静により肩の痛みは軽快することが多々あるのでまず保存療法が第1選択です。
 

【痛みが落ち着いてきた場合】


肩の痛みが落ちついてきた場合には運動療法をお勧めします。腱板断裂症性変形性肩関節症の状態でも腕があがる事が多々あるからです。なぜ腱板が断裂していても腕があがる事になるのでしょうか。これはまだ明確には分かっていません。そして、腱板断裂症性変形性肩関節症では肩甲骨の関節窩(人工関節置換術の項参照にしてください)がいたんでいることが多々あります。骨の変形の程度は個人差があります。そのために運動療法が効果的である方とそうでない方がおられます。
 

【保存療法(手術をしない治療)で効果が少ない場合】


いくつかの手術療法が推奨されています。

1.鏡視下滑膜切除術

内視鏡で関節をみながら、腱板や滑膜の変性(正常な組織でない)を掃除します。
痛みは軽減するのですが動きが著明に改善するかは個人差があります。
 
2.人工骨頭置換術
 
上腕骨頭のみ人工骨頭に置き換える手術です。人工関節置換術と異なり、人工骨頭置換術では関節窩は処置をしません。可動域の改善は、もともと痛みはあっても肩があがる方では人工骨頭置換術でも見込まれます。しかし、肩の痛みがあり腕があがらない方では人工骨頭置換術で症状の改善の見込みは低いと思われます。したがい、腱板断列症性変形性肩関節症に対する人工骨頭置換術の適応は、医師は症状や患者さんの機能回復の目標に基づいて決定します。
 

【どうしても肩があがらない方への新しい治療方法】


2014年4月から国内での使用が認可された、リバース型全人工肩関節置換術が効果的という報告があります。このリバース型全人工肩関節はヨーロッパでは1990年代から、アメリカでは2004年から使用が開始されました。日本の導入は欧米諸国に比べて大幅に遅れています。従い、日本から発信され、日本人の患者さんを対象とした、臨床データーは十分とは言えません。私もアメリカ留学中にリバース型全人工肩関節置換術の手術や術後の患者さんの経過などはみてきましたが、アメリカやヨーロッパの医師と比較して十分な経験があるとは言いがたいです。以下の内容は留学で得た知識を下に紹介しております。
 

【反転型全人工肩関節置換術(リバース型全人工肩関節置換術)】


反転型全人工肩関節置換術(リバース型全人工肩関節置換術)は以下のイラストのような器具を、肩の肩甲骨と上腕骨に挿入します。下のイラストのように変形した上腕骨にプラスチックの受け皿(ライナー)とステムを、肩甲骨の関節窩に金属のボール(グレノスフェア)とベースプレートを設置します。ベースプレートは金属のスクリューで固定します。
 

反転型全人工肩関節置換術(リバース型全人工肩関節置換術)

 
下の図はリバース型人工関節が上腕骨と肩甲骨にはいった状態を示しています。ステムとライナーは連結しています。
 

リバース型人工関節が上腕骨と肩甲骨にはいった状態

 
下の図はベースプレートが肩甲骨関節窩に挿入された状態を示しています。
 

ベースプレートが肩甲骨関節窩に挿入された状態

 
なぜ反転型全人工肩関節(リバース型全人工肩関節)と呼ばれているか
 

全人工肩関節置換術と反転型全人工肩関節置換術

 
全人工肩関節置換術ではいたんだ上腕骨頭をヘッドで置き換え、いたんだ関節窩にグレノイドコンポーネントを設置します。腱板(インナーマッスルの腱)が損傷していない場合には通常では全人工肩関節置換術がおこなわれます(人工関節置換術の項参照)。肩の構造は、元の肩の解剖に似ています。しかし、反転型全人工肩関節では丸いヘッドにあたるグレノスフェアが関節窩に、そしてグレノスフェアの受け皿が上腕骨側についています。全人工関節肩置換術ではヘッドが上腕骨に、受け皿が関節窩に挿入されます。このヘッドと受け皿の位置が反対になっています。したがって、反転(リバース)型人工関節と呼ばれます。
 

【反転型(リバース型)全人工肩関節置換術の術前、術後のレントゲン】


正常のレントゲン
 

正常のレントゲン

 
手術前のレントゲン(腱板断裂症性変形性肩関節症のレントゲン) 
 

手術前のレントゲン

 
腱板断裂症性変形性肩関節症のイラストを参照してください。上腕骨頭の肩峰のすき間が正常と比較してありません。

手術後のレントゲン 
 

手術後のレントゲン

 
上腕骨の変形した骨頭を切除し、肩甲骨と上腕骨にインプラント(人工物)が入っています。
 

【反転型全人工肩関節置換術後のリハビリ】


施設間で異なりますが、概ね数週間は装具をつけていきます。徐々にリハビリをしていきます。アメリカで臨床現場をみてきた経験を述べますと、早いひとでは3ヶ月で腕が頭の高さまで挙がります。しかし、何時頃、どれくらい可動域がよくなるかは人により異なることが多々あります。したがい、主治医と相談することをお勧めします。
 

【リハビリ後の肩の挙がり方】

 

リハビリ後の肩の挙がり方

 
イラストは平均的な肩の挙がり方を示しています。健常側と全く同じになるのは難しい事をご了承ください。
 

【リバース型全人工肩関節置換術後経過について(アメリカの患者さんの1例)】


実際のリバース型全人工肩関節置換術をうけた患者さんの1例を呈示します。この写真は私の留学先のGerald Williams先生から提供されたもので、患者さんの了承を得ています。Gerald Williams先生は日本で2014年4月から認可されているのをご存じで今後の日本の患者さんのために写真を利用してくださいというお言葉をいただいております。この場をもちましてGerald Williams先生に感謝申し上げます。

手術後3ヶ月の時点での経過(右肩手術)
 

手術後3ヶ月の時点での経過(右肩手術)

 
手術後2年の時点での経過(左肩手術)
 

手術後2年の時点での経過(左肩手術)

 
手術後5年の時点での経過(右肩手術)
 

手術後5年の時点での経過(右肩手術)

 
 

【リバース型全人工肩関節置換術後の回復の目安】


1.肩が挙がるようになる。写真のように早い人では3ヶ月であがる場合もあります。しかし小柄な女性は三角筋の筋力が弱いためかすぐに挙がらない例もあります。

2.外旋は一般的にあまり開かない。しかし、術前から腕が開く方は術後も比較的開く場合も多い。しかし、個人差はある。

3.内旋(背中に手をまわす)は術後獲得が難しい。結滞動作やブラジャーのホックをかけるトイレでお尻を拭くなどの行為はしにくい。獲得角度には個人差がある。

4.再置換術例(何らかの手術をすでにうけている方)は初回リバース型人工肩関節置換術の術後の経過に比べて可動域獲得は劣る可能性が高い。

どういう経過をたどるか大まかな目安をお伝えします。人工関節置換術の予後は、昔はあまりよくないと言われました。それは上記の受け皿のプラスチックが数年で緩む、つまり肩甲骨からプラスチックがずれる、外れるために、痛みが再発するからです。しかし、近年の医学の発展により10年くらいは緩まないことも見込まれてきています。しかし、これは世界の人工関節がよく施行されている施設(アメリカやフランスなど)からの報告です。従い、どれくらい肩の人工関節が長持ちするかは主治医と話をする事をお勧めします。
スポーツなどの活動性やどの程度の重量物をもちあげていいかという事に関してはまだ統一した意見はありません。私の師匠のWilliams先生は両手で10kg以上のものを持ち上げないでくれと患者さんに話していました。Williams先生の患者さんで人工関節置換術術後の患者さんでゴルフをしている方もおられました。しかし、ゴルフなどのスポーツがどこまでできるかは患者さんの筋力なども関係してきますので個人差があります。したがい、スポーツなどの活動性やどの程度の重量物を持ち上げてよいかは主治医とご相談することをお勧めします。
 

【反転型全人工肩関節置換術後の特有の合併症】

 
反転型全人工肩関節置換術の術中や術後おこりうる合併症の代表例についてお話します。合併症の確率は世界各施設から報告されていますが、さまざまであるために具体的数値はここでは記載しておりません。日本ではまた臨床データーが揃っていないので各主治医と相談してください。

1.感染、化膿

人工関節は人体にとっては異物です。術早期からおこることもありますし、経過良好でも身体の免疫力が低下して、細菌が人工関節周囲に侵入して、化膿がおこることがあります。肩が腫れる、熱が続く、突如として強い痛みがでる場合などは感染がおこっている可能性があります。手術中に医師は感染予防のために抗生剤の点滴をしたり、術中に洗浄したりして、細菌がいつかないように努めます。しかし、感染は術後起こりうる合併症です。施設間で感染の頻度は異なりますので具体的数値を述べるのはここでは割愛します。参考のために、私が留学していた施設、トーマスジェファーソン大学では、感染の頻度は初回手術で4%と患者さんにお伝えしていました。

2.神経障害

反転型全人工肩関節置換術では器械を的確に設置するためには筋肉をよけたり、関節の靭帯を切除します。そうした操作の際に腕の牽引などで一過性の神経障害(手のしびれ、数日は肘が曲げにくい)がおこる可能性があります。

3.スカプラノッチ
 

スカプラノッチ

 
反転型全人工肩関節のインプラントの形状では腕を反対側の肩に触る行為は正常と比して制限されます。ライナーと肩甲骨の骨が反対側の肩に触る行為(肩の内転、内旋といいます)の際に接触し、それが繰り返されるために肩甲骨が削れることをスカプラノッチといいます。症状としては肩の内転、内旋で音がするなどです。強い痛みがあまりでないといいます。しかし、ライナーはすり減り、レントゲンでは肩甲骨の骨が削れているのがみられます。おこってしまったスカプラノッチに対する処置、つまり骨の削れを治す確率された方法は現時点ではありません。従い、このスカプラノッチがおこらないようにグレノスフェアの設置に細心の注意を払う必要があります。グレノスフェアの大きさを変えたりして対応する場合もあります。スカプラノッチの頻度は施設間で異なります。したがい、手術を受ける前に主治医の先生とこのスカプラノッチの対応についてよく相談される事をお勧めします。

4.肩峰骨折
 

肩峰骨折

 
術後に肩峰に骨折がおこることがあります。上肢の長さが幾分長くなります。上腕骨は三角筋でささえていますが、上肢が長くなりすぎると三角筋が引っ張られ、三角筋の付着している肩峰が骨折すると考えられます。
 

【反転型全人工肩関節置換術後の合併症への対策】


1. 感染に対して

程度によりますが、再手術が必要となる場合があります。感染では、抗生剤の点滴や手術にて体内を洗浄します。しかし、それでも感染が収まらない場合もあります。感染の程度によっては一気に人工関節を抜去しなければならない場合があります。人工関節が緩んだ場合にも再手術が必要となる場合があります。再手術の内容としては代表的なので、関節窩(肩甲骨の受け皿)はプラスチックの受け皿をいれて骨が少なくなりました。再手術の場合にはプラスチックの受け皿を再度置換するのは非常に困難です。そのために最終的には器械を入れ替えるにしても上腕骨に金属のボールと芯棒を再置換するだけになることが多いです。しかし、再手術は非常に難しい手術であり、主治医の先生と相談する必要があります。

3. スカプラノッチに対して

前述のように、おこったスカプラノッチを治す治療は確立していません。従い、スカプラノッチがおこらないように対策がおこなわれています。具体的にはグレノスフェアの設置に細心の注意を払う、グレノスフェアの大きさを変えたりするなどをしています。しかし、それでいつもスカプラノッチが避けられるわけではありません。

4. 肩峰骨折に対して

残念な事におこってしまった肩峰骨折に対しては保存療法で装具固定などをしていくことで肩の疼痛は軽減していきます。肩峰骨折がおこっても骨折が治癒すれば肩の可動域は改善してくると言われています。しかし、個人差がありますので、骨折後に可動域が十分に改善しない場合もありますので、おこった場合には主治医の先生とご相談ください。
 

【腱板断裂症性変形性肩関節症に関する要約】


1. どうしても肩のあがらない腱板断裂症性変形性肩関節症では反転型(リバース)全人工肩関節置換術が有効であるという報告がされています。

2. 日本では2014年4月から反転型(リバース)人工関節の手術が受けられるようになりました。

3. おこりうる合併症がいくつか伴うので、手術を決断される場合には主治医とよくご相談してください。

2015/2/3